院長ブログ

症例ブログ:顎関節症とその治療について その2

川崎区にある歯医者 パール歯科医院 院長の藤田です

今回の症例ブログは、「顎関節症とその治療について」の続きになります。

前回の顎関節症とその治療についてはこちらからぜひ、お読みください

https://www.pearl-dental-clinic.net/director/%e7%97%87%e4%be%8b%e3%83%96%e3%83%ad%e3%82%b0%ef%bc%9a%e9%a1%8e%e9%96%a2%e7%af%80%e7%97%87%e3%81%a8%e3%81%9d%e3%81%ae%e6%b2%bb%e7%99%82%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/

前回お知らせしたとおり、顎関節症には顎関節周囲の筋肉が原因となるⅠ型 関節包や靭帯が原因のⅡ型 関節円板が原因のⅢ型 周囲骨の変形が原因のⅣ型 原因不明のⅤ型に分類されます。特に関節円板の復位が可能なⅢ型aがⅢ型bに移行するか否かが予後の良し悪しに大きく関わると私見になりますが考えています

顎関節症(TMD)は、その原因となるものが様々なのでその診断が重要となります。まず最初の診断は下顎頭と呼ばれる下顎の後部先端つまり顎関節につながっている箇所の形態上の変形があるかどうかです。これは以下に記すとおりレントゲン撮影あるいはMRIで診断できます。

この下顎頭に変形が見られれば、Ⅳ型になります。

次は、開口制限の有無と直前までのクリック音の確認です。関節円板が前方にずれて戻らない状態ですと、口を開くのが困難になり、よく言われるところの「握り寿司」が食べられない状況になります。また独特のクレピタス音(ジャリジャリ)がでることあります。これは軟骨である関節円板が外れることで、骨と靭帯が直接触れ合って出る音と言われています。下図の「直前までのクリック」は「直前までのクレピタス」の誤記のようです。

これらがあればⅢ型b重症の区分けとなりそうです

続いては、関節円板が外れたり戻ったりの際にでてくる「ひっかかり」あるいは「関節雑音」の確認です。関節雑音とは、独特のクリック音(カク・ポキ)があるかどうかで、あるようならばⅢ型b、ないようなら原因不明やストレス等のⅤ型となります。クリック音等がなく関節部に疼痛があれば、靭帯・関節包に問題があるⅡ型、関節部疼痛はないが、周囲の筋肉に張りや痛みがある場合はⅠ型と判別します。

次に顎関節症の治療について、記していきます

上記述べたように、顎関節の原因は多岐にわたります。その原因を確定した上で、治療を行わないと、治療を繰り返しても好転していきませんし場合により悪化させてしまいます。その反面、時間の経過とともに特に治療を施さずとも症状が消失してしまうこともよくあるのです。

そこで、若干のそもそも論になりますが、顎関節症になっても基本的にやってはいけない医学的な面からみた治療、というのを記したいと思います

1 外科的療法

1970年代、主に米国でこの治療法が行われました。字ずらの通り顎関節にメスを入れて、関節円板を切り取ったり靭帯等を移植したりする術式です。主に膝の関節で行う手術を顎関節に応用したものです。ただ顎関節というのは、膝の関節と異なり動きの方向性が複雑で、良好な結果はえられませんでした。むしろ外科的侵襲により、長期間でみるところの自然緩解が阻害されることになってしまったのです。また治癒過程でも頭蓋骨をつなぐ関節だけに、患者にとっては、はなはだ苦痛が伴ったようです。令和の時代すっかり消失した治療法です。ただ自分が学生時代には、教科書にこの「外科的療法」がまだのっていたのを思い出します。

 

2天然歯の削合

こちらは、日本顎関節学会が数年前に正式に発表したことで、論争に決着がついた格好となりました。つまりまったく治療の手が加わっていない歯を、顎関節治療を目的に削るのは良くないということです。早い話が、そんなことしなくても顎関節症は自然緩解することもよくあるし、かみ合わせの最中に自然と歯が削れたり、移動したりするので自然にまかせろ。ということです。ただ問題点が歯周病的な歯の動揺を治療するという見地にたつと、天然歯削合が、他の学会的にはゆるされてしまうのです。顎関節症で歯周病も患っている人はたくさんいるので、このあたりは歯科医師の判断に委ねられるようです。

 

顎関節症Ⅰ型治療法

顎関節症の治療法にはいろいろありますが、対症療法として、関節痛に対しては安静を指示し、以下療法に推移します

物理療法

物理療法には、咀嚼筋のマッサージ、患部を温める温罨法(おんあんぽう)、電気刺激療法などが含まれます。マッサージは主に手指を用いて筋肉に機械的な刺激を与え、血流を促進し痛みを緩和します。特に、入浴後にリラックスした状態で行うことが推奨されています。温罨法では、ホットパックや蒸しタオルを用いて組織の温度を上げ、血流増加や筋緊張の緩和を図ります。電気的に筋肉を刺激するマイオモニターやTENS(経皮的電気刺激療法)は、筋のリラックスと痛みの除去に効果があります。

運動療法

凝り固まった筋肉をほぐす目的の筋伸展訓練は、大口開による咀嚼筋のストレッチングを通じて、筋肉の柔軟性や血流を高め、顎の開閉能力を向上させます。この訓練は患者自身が日常的に行うことができ、朝晩の習慣として取り入れることが望ましいですし短期間では効果がでないこと良くあります。訓練は軽い痛みを伴うこともあります。

 

薬物療法

薬物療法では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンが用いられます。これらの薬剤は、痛みの原因となる化学物質の活動を抑えることで、痛みと炎症を軽減します。慢性筋痛や広範囲の筋痛および痛み神経の過敏化に対しては三環系抗うつ薬が効果的なこともあります。ただし、ただし根本的治療とはならないため、安全性を最優先に考慮し、最小限の期間と用量で行われるべきです。

 

◎アプライアンス療法

スタビライゼーションアプライアンスは、顎関節症の治療において広く使用されています。この装置は、顎の咬合を均一に保ちながら咀嚼筋の緊張を緩和し、顎関節への負担を軽減します。マウスピース療法やナイトガード療法とも呼びます。通常は夜間に使用されますが、状況によりますが日中も使用してもらうことあります。

次に、就寝中に歯ぎしりや食いしばりのある方にはスプリントと呼ばれる装置(ナイトガードやマウスピースという事もあります)を歯の上につけて寝てもらい、顎のズレを修正していく事から始めるのが一般的です。

他に、顎関節症の発症や経過には生活習慣が深く関わっているということを、患者さんに気づいてもらい、それをとり除く努力をしてもらいます。日中のくいしばり、偏咀嚼の癖などがあることを気づいてもらい、家庭や職場で意識して悪い癖なだの改善を行います。何もしていないときに上の歯と下の歯が接しているだけでも筋肉に負荷がかかり、脳がストレスをかんじていることを知っていただき、やめてもらうことが大切です。

 

また、各個人の平均最大開口量である人差し指から薬指まで3本を縦にして口に入れて、筋肉のつっぱり感を感じながら5秒間そのままの状態にしてストレッチするのが大変効果的です。

どうしても治らない場合には筋肉のしこりであるトリガーポイントに直接ボトックスなど筋肉の過緊張を取り除く注射をすることもあります。

顎関節症Ⅱ型治療法

基本的にはⅠ型と同様ですが使用薬剤・運動療法等若干異なります

◎薬物療法

顎関節痛の治療においては、NSAIDsが通常用いられます。これらの薬剤、例えばジクロフェナク、ナプロキセン、ロキソプロフェンは、顎運動時の痛みをやわらげるために効果的です。これらの薬は通常、急性の痛み管理に用いられ、投与は最長で7日間とされ、痛みのコントロールと炎症の抑制を目的としています。薬物療法は頓用ではなく、時間を定めての服用が推奨されます。

◎運動療法

顎関節の可動性を向上させるために、顎関節可動化訓練が行われます。この訓練は、顎の開口制限がある患者に特に推奨され、顎の動きを促進し、関節の機能を改善するために実施されます。治療は軽度の疼痛がある場合でも継続されることが多く、痛みが強い場合には炎症が収まるのを待つこともあります。また、手技によるソフトな外力を顎関節に適用し、滑走や回転運動を促して顎の動きをスムーズにします。

 

◎アプライアンス療法

顎関節痛障害におけるアプライアンス療法は、咀嚼筋の痛みを管理する目的で用いられるスタビライゼーションアプライアンスと同様です。

 

顎関節症Ⅲ型a治療法

◎復位性の治療

復位性の顎関節円板障害では、基本的には円板の復位を目指さず、痛みや間欠ロックのない場合は経過観察が推奨されます。ただし、開口制限を恐れて自発的に開口を制限している場合は積極的な開口を指導します。症状が重度で日常生活に支障をきたしている場合には、運動療法や薬物療法の検討があります。

 

◎運動療法

運動療法では、顎関節授動術や顎関節可動化訓練が行われます。顎関節授動術は、元に戻らない関節円板前方転位や、時として起こる開口障害に対して行われます。また、顎関節可動化訓練では、患者自身が顎の動きを意識した訓練を行います。症状が強い場合や復位が困難な場合は、専門医の紹介も検討されます。

◎アプライアンス療法

アプライアンス療法では、スタビライゼーションアプライアンスや、顎の位置を前方にずらす整位型アプライアンスが使用されます。これらのアプライアンスは、関節円板の復位や後方偏位が原因と考えられる負担の軽減を目的としています。このあたりが、歯科医師の腕の見せ所ですが、治療の設定は個々の患者に合わせて調整され、関節円板の復位後には大掛かりな咬合再構成が必要な場合もあります。

 

顎関節症Ⅲ型b治療法

原則的に顎関節症Ⅲ型bの確定診断にはMRIによる画像検査が必要であり、口腔外科医等、専門医との連携が必要になります。治療法は顎関節症Ⅲ型a踏破します。その上で経過観察が主な治療となりますが、痛みや開口障害顕著な場合には、対症療法的治療法が検討されます。偏位した関節円板はやがて縮小消滅してしまい、新たな関節円板が形成されるという学説もあるようです。

 

顎関節症Ⅳ型治療法

変形性顎関節症と呼ばれるⅣ型の基本治療は、ほかの型式の治療と同様に対処されます。

診断にはMRIやX線検査が用いられますが、治療の選択には注意が必要です。自然経過が良好であるかの見極め長期的な観察も必要です。下顎頭の変形やそれに伴う咬合問題が進行する可能性もあります。専門医は、下顎頭の変形や咬合不全に対処するために口腔機能回復療法や補綴歯科治療、場合により矯正歯科治療を必要に応じて行います。

顎関節症Ⅴ型治療法

以下表による他の疾患との鑑別も考えながら

対症療法を続け、長期予後をみていきます

歯科的な問題点が見いだせないため、医科の先生に依頼・相談になることもあります

顎関節治療に対しての考察とまとめ

顎関節症はself-limitedな疾患と考えられ、経過観察でも症状が治まる傾向にあります。このこともエビデンスの裏付けをもった治療法が確立しずらい要因ともいえるのではないでしょうか。

現行治療方針のバックグラウンドとなる多因子説も簡単にまとめると総合的なストレスが頭蓋・下顎骨を含めた姿勢を司る筋神経システムに集中することで、生体のもつ適応力を超えた時点で発症するものと考えられます。ただこのストレスも時間経過により生体の適応力が変化することで、徐々に吸収されていくのである。

以上の考察と近年の研究結果・各種論文より推し量られる治療方法としては、可逆的な治療を優先させるという考え方が主流となった訳である。つまりむやみに天然歯を削ったりしない方法といえます。以前米国で主流になった顎関節外科治療の類は論外です。顎関節症は、放置していても周囲の骨・軟骨・円板・靭帯・筋肉等が馴染んでくることにより、症状が消失する傾向にあること先に記したとおりです。ですので顎関節症の根本原因と考えられる、不良なかみ合わせや就寝時の姿勢、あるいは顎にストレスがかかる悪習癖をとりのぞけば、問題がなくなる傾向にある。その反面根本原因が除去できず、顎関節組織がストレスにさらされ続けると、症状はすすみ開口困難や顎関節の慢性的な疼痛に至る事があるため、長期的な視点で経過観察の必要性があるものと考えられます。

ただ例外として特に高齢者に多いのであるが、多数歯の欠損につらなり咬合が崩壊状態の患者様においては、上記の考えを考慮するのは当然として

1治療前の咬合状態や咀嚼運動の確認

2治療自体が顎関節症を悪化させないための配慮

3顎関節にとって最もストレスのかからない下顎の位置(中心位)の再現

4術後の長期的管理

等が肝要といえる

今回も、医療法人アクアマリン パール歯科医院 ドクター勉強会の内容を一般の方々に、理解しやすいよう専門用語等をわかりやすい単語に置き換えて説明したつもりですが、

どうしても特殊な分野なので一部説明がわかりずらくなってしまったかもしれません。

今後の課題にしていきたいと思います

パール歯科医院は、歯科における全ての分野を題材にして、勉強会を開きスタッフ全員の知的向上を目指しています。ご共感いただける方は、ぜひ当院スタッフに加わっていただけると嬉しい限りです。

 

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医療法人アクアマリン パール歯科医院 理事長 藤田陽一

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